読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

京野 誠 「ひとつえらぶとしたら」

海と空が交わることはあるのだろうか

海 3

ミカの家へ一歩足を踏み入れると「新しい」匂いが私を迎え入れた。

新しい柱、新しい畳、そして新しい夫婦の雰囲気という漠然とした匂いである。

ひとたび玄関に足を踏み入れドアを閉めると、まるでこの家だけを北風が避け、冬の貴重な日差しが降り注いでいるかのような、温かい雰囲気が身体を包み込む。

1階部分は和室と寝室、2階にリビングとキッチンという割りと最近の思想に基づいた2回建ての木造住宅である。

さっそく2階に案内されると、大きなクリスマスツリーが目に飛び込んできた。さらに天井からは"Merry Christmas”という飾りがぶら下がっている。対面式のキッチンのコンロには作りたてのスープから湯気があがっている。

それは一言で形容するなら「幸せ」であると思う。これがきっと、教科書に載っている「幸せ」の例であろうと私は確信した。そして今の私からはずっと遠いもののように思える。

 

私たちは生まれてから、たくさんの分岐点に出会い選択を行う。もちろん選べないこともたくさんある。それは家の事情であったり家庭環境、親の収入、そして親の思想だったりする。出会う人間にも影響を受ける。そういった前提や影響を受けながら繰り返し行った選択がその人の人生をつくる。

だから同じ小学校を卒業しても、私のミカの人生はこんなにも違う。

 

「今日は倫子とピザを焼こうと思ってね」

ミカは冷蔵庫からピザ生地を取り出し、手際よく準備を始めた。

そういえば以前LINEでそんなことを言っていた気がする。年末の忙しさの中で、ミカの連絡は重要フォルダには格納されていなかった。

故に私は、当日の正確な集合時刻もミカの家の最寄り駅もその日の朝確認したし、その日の過ごし方についても具体的なプランなどおよそ頭に入っていなかった。そんなふうだから、ミカへの新築祝いのことに思い及んだのも昨日で、結局間に合わない。当日の手土産やクリスマスプレゼントなんていう考えなんて思いつきすらしない。結局、自宅に買い置きしてあった地元の手焼きせんべいを持ってくることしかできなかった。

私はなんだか居心地が悪くなってきた。