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京野 誠 「ひとつえらぶとしたら」

海と空が交わることはあるのだろうか

海 1

今日は電車で遠くまで来た。

海には向かっていない。なぜなら埼玉に海はないからだ。

のどかな風景。雲ひとつない真っ青な空。電車の床を流れる影が私を優しく撫ぜながら通り過ぎていく。

車両には私を含めて3人しか乗っていない。くたびれた黄色いソファにもたれて陽だまりにまどろんでいると乗り換え対象の駅に着いた。

ドアを出るとすぐ冷たい風が身体の熱を急速に奪っていく。

電車のホームの日陰から見る日向が眩しい。線路を横切る車のボンネットが太陽を反射しながら通り過ぎる。

 

今日は小学校時代からの友人であるミカが結婚して家を建てたというので、そのお祝いに向かっている。

ここのところ忘年会続きで胃が重い。

 

昨日も飲み会だった。始まる前までは一次会で切り上げようと固く心に決めていたのに結局だらだらと二次会に参加してしまった。その帰り道、JR組と地下鉄組に別れると、4対2となり地下鉄組だった私はある男性と帰り道が一緒になった。こういう場合、必ずどちらからでも帰れるという人がいるはずで、その場の雰囲気とメンバーを見てどの路線で帰るかを決めるというケースが往々にしてあると思われる。

私はこの時既にこの男にロックオンされていたのだ。推定38歳、妻子持ちの優男である。

駅に着くと、隣接施設に入っているビールスタンドの明かりが地面を照らしていた。店の中央には金色に輝くビアサーバがどうだと言わんばかりに堂々と陳列されている。一杯だけ飲んで行こうと絡まれ、情けないことにこれも断りきれなかった。こういう場合、一杯で終わることはない。

すべて自分が招いたことだ。

オッサンに口説かれながら、ビールの飲み過ぎで重力を増している頭をなんとか首で支えていた。

「送っていくよ」という言葉を曖昧にやり過ごし、幸せってなんだろうとぼんやり思う。結婚という契約は一体何の意味があるのだろう。

電車の中で寝たら途中で起きられる気がしなかったので、一生懸命仕事のことを考えた。考えようとすればするほど思考が発散して同じ場所を何度もうろうろしている気分だった。

酒はなにも生まない。