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京野 誠 「ひとつえらぶとしたら」

海と空が交わることはあるのだろうか

歯を抜いた

親知らずを抜いた。

歯医者に親知らずとその前の歯の間が虫歯だと言われたから。

でもいざ抜いてみると虫歯は小さく、これ本当に抜くべきだったのかと疑問が残る。

そもそも虫歯はレントゲン撮影で大きさが確認できたはずとあとから思う。

後悔先に立たず。

 

抜いた歯を持ち帰ってきて見てみると、まっすぐしっかり根を張っていたのが分かり、思わず、ごめんな、と呟いた。

 

今までありがとうな。

 

ずっと、何年も僕の口の中で咀嚼を支えてくれたパートナーを僕は無理矢理に引っこ抜いてしまった。

当たり前だけど一度抜いたら戻らない。

自分の一部がなくなった喪失感に取り憑かれ今日一日なにもやる気が起きない。熱も出てきた。

今日の予定はすべてキャンセルした。

 

たかが歯一本で大袈裟なと思うかもしれないが、僕にとって歯はそれくらいとても大切なものだ。

実際、友人は歯を抜くことになんの抵抗もないと言っていた。それはきっと歯を大切にしていないからだ。

 

価値観は人それぞれで、それは医者もそうで、結果的になにが正しかったのか分からないし、それこそ人によって正解が異なるのだろう。

 

失って気づくのは馬鹿だ。

しかし人間はそういう間違いを繰り返し犯してしまう。

そのたびに涙を流すのに次の日には乾き、心は鈍感になってゆく。

でもその核にあるものを忘れてはならない。自分の正しさを忘れてはならない。

世間には間違いの誘惑が多いから。

騙されてはいないか。誘導されてはいないか。

本当は、自分はどうしたいのか。

いまいちど心に問いかける。